「バカにされた太鼓の存在を認めさせたい」。“スマホを捨てた若者”が、太鼓に夢を懸ける理由 VOL.2

Text: YUUKI HONDA

Photography: LUI ARAKI unless otherwise stated.

2018.5.4

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AIによる自動運転の実用化、ブロックチェーンやIoTによるデジタル革命……。近未来に起こるであろうこれらの技術革命が芽吹きつつある昨今は、まさに時代の転換期だと言える。

そんな時代の変わり目に、スマホを捨て、都会から離れ、日本で野生のトキが唯一羽ばたく、新潟県の佐渡島に移り住んだ9人の若者がいる。

彼らは、これまで世界50カ国で6,000回以上の公演を行ってきた、太鼓芸能集団「鼓童(こどう)」の研修生。

島の南東にある研修所で共同生活を送る彼らは、毎日5時に起き、稽古に明け暮れ、22時には床につく。身の回りの雑事はすべて自分たちで行う。世間の動向を知る情報源は新聞のみ。

このような生活を2年続けて、鼓童の正式なメンバーになれるのはたった数人。大半は夢破れて島を去るこのシビアな世界で、彼らは今日も、一心不乱にバチを振るう。

今回、Be inspired!は佐渡島での取材を敢行し、彼らの“青い声”――若さゆえの大望、先の見えない道を行く不安、親元を離れたことによる自立心の芽生え――を聞いてきた。

そしてそれらを、3つの記事に分けて紹介する。

第2弾は、中谷 憧(なかたに しょう)、小室 利樹(こむろ りき) 、廣木 優一(ひろき ゆういち)の3人。

▶︎『“スマホを捨てた若者”が、太鼓に夢を懸ける理由 VOL.1』はこちら

中谷 憧 Shou Nakatani 19歳

ー研修所に来て約1年が経ったと思います。今の心境はいかがですか?

太鼓に集中できるこの環境はとてもありがたいです。まあでも、就職や進学した友達を羨ましく感じる時もありますね。

ーそういう感情も本音ですよね。

はい。ただ、今はやるべきことに集中できています。

ーそれはよかったです。でも、入所当初にはホームシックになったと聞きました。大丈夫でしたか?

もう辛くて太鼓の音が聞きたくないぐらい追い込まれましたね……。休憩時間なんて、誰かが練習している音が聞こえないように耳を塞いでうずくまってました。

「太鼓で生きていく」ということを真剣に考えられていなかったんだと思います。

ーかなり辛い状況だったと思います。どう持ち直したんですか?

入所して3〜4カ月経つと、研修所の生活にも慣れてきて、だんだん落ち着くことができました。「太鼓で生きていきたい」という気持ちも改めて、自分の中に強く感じることができました。

なんで研修所に来たのかを思い出すことができたんです。

ー「太鼓で生きていく」「心を伝え続ける」という目標のために研修所に来たんですよね。「心を伝え続ける」というのは、具体的にはどういうことになるんですか?

太鼓奏者とは別に、唄い手にもなりたいと思っているんですが、ここでいう唄は、昔から現代に伝わっている民謡や子守唄のことで、この唄の歌詞が僕の言う心です。

民謡や子守唄って、昔から伝わる知恵が歌詞になっていることが多いので、現代にも通ずるところがあるんです。だから唄の歌詞を通して、日本人が大切にしてきた心を伝えていきたいと思っています。

ーなるほど。あとは目標に向かって進むだけですね?

はい。まあ、今ちょうどホームシックなんですけど(笑)。

ーあ、そうなんですか(笑)。

急にきました。周りもたまにそういう話をしているんですが、僕は割と定期的に来るのかもしれないです。

ー家族に会いたいという気持ちが?

そうですね。

ーメンバーになれるか分からないし、不安にもなりますよね。

はい。将来が分からないこの生活への不安はあります。きついこともありますし。苦しい時は本当に苦しいんです。研修所での生活って自分の弱さがすごく見えるんですよ。だから落ち込むこともあります。

でも、諦めません。同期のメンバーもみんなそうだと思います。

ーメンバーに選ばれる自信はありますか?

いや、ないです。メンバーの方々は技術はもちろん人間的にも尊敬できる人たちです。僕はまだまだ学ばないといけないことがたくさんあります。

でも、ここに来て、家族や友人のありがたみも分かりましたから、みんなのためにも頑張りたいです。

ーお世話になっている方々に、感謝の気持ちを伝えたいということですか?

はい。みんなは僕の支えなんです。今まで一緒に頑張ってきた友達。相談に乗ってくれる家族。みんなすごく優しくて、応援してくれます。僕が頑張れるのは、応援してくれるみんなのおかげです。

いつか、鼓童のメンバーとして舞台に立った自分の姿をみんなに見せて、今までの感謝を伝えたいんです。

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小室 利樹 Riki Komuro 20歳

ー太鼓を始めてどれくらいになりますか?

15年目……ですかね。

ー長いですね。

とは言っても柔道も並行してやっていましたし、太鼓一本に打ち込んできたわけではないんです。

ーでも、研修所に来るには決意が必要になると思います。なぜ研修生に?

ずっと続けてきた太鼓を趣味にしたくなかったんです。仕事にしたくて。

それで、仕事としての太鼓となるとどういう選択肢があるんだろうと考えていろいろ調べるうちに鼓童を知りました。それが高校3年生の時だったこともあって、高校を卒業したら研修所に入ろうと思ったんです。

ー太鼓のプロ集団なら他にもありますが、なぜ鼓童だったんですか?

中学生の頃から漠然と、海外で活躍できるトップレベルの太鼓奏者になりたいと思っていました。鼓童は世界ツアーも回りますし、トップレベルの太鼓奏者の方が何人もいます。だから鼓童なんです。

ーじゃあ実際に研修所に来て、目標へ一歩踏み出した今の心境は?

最初の頃は練習についていくだけで精一杯。周りを見る余裕はありませんでした。最近になって少しだけど余裕が出てきたかな、という感じで。

ー今までの暮らしとは全く違いますもんね。

はい。友達はみんな働いてお金を稼いだり進学したり……なんというか、社会の中で生きているわけじゃないですか。研修所は学校じゃないし、かといって働いているわけでもなく、なので、なんていうんだろう……。

ー焦る……?

そんな感じです。同期との差を感じますし。

ーじゃあ練習あるのみですね。

はい。でも、まだどこかに甘えがあるんです。きついことから逃げようとしてしまうんです。

そんな自分を変えたくて、今はとにかく「逃げない」ことを意識しています。嫌なことがあっても立ち向かうこと。失敗しても、それを糧にして、トライアンドエラーで次に進むこと。とにかく行動あるのみですね。

ー結局そこに尽きますね。では、結果が出るまで1年切った今、その時のことは想像できますか?

うーん……もちろん自分がメンバーになれればベストですし、他の人がそうなったとしても頑張ってほしいですし……。

僕自身はメンバーになれなかったとしても太鼓を続けるつもりなので、もし悪い結果になっても打ちひしがれず頑張りたいと思います。

ーいい結果を迎えたとしたらどうですか?

それは嬉しいです。嬉しいですけど、今よりもきつい生活になると思うので、より気合いを入れてやっていかないといけないなと。打ちのめされながら頑張ると思います。

ー打ちのめされる前提ですか(笑)。

そうですね(笑)。

とにかくその日が来るまで、今できることを精一杯頑張りたいと思います。

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廣木 優一 Yuichi Hiroki 19歳

ー中学卒業後に太鼓の世界に入ろうとして、親に止められたと聞きました。

そうです。中学生の時から太鼓を仕事にしたいと思っていたんです。何か他の仕事をしながら太鼓を叩いている自分の姿が想像できなくて。

地元から出てみたいとも思ってたので、だったらもう中学卒業後でいいじゃんって。

ー大胆ですね。

これはさすがに親から止められたので、ひとまず高校に行って、そのあとどこかで修行しようと考えました。

それで高校2年生の時に、鼓童の演奏を初めて生で見たんですけど、その時の衝撃がもう……一目惚れでしたね。今まで考えていた太鼓の概念を覆されたというか。

ー鼓童と他のチームでは何が違ったんですか?

他のチームの演奏は引き込まれるように感じるんですが、鼓童の演奏は押し寄せてくるように感じるんです。鼓童の世界観が観客席を包み込むみたいな。あえて言葉にするとそんな感じです。とにかく衝撃でした。

だから修行するなら鼓童だって決めて、ここに来ました。

ー実際に修行してみてどうですか?

中学生の頃からほぼ毎日叩いていたので、太鼓が生活の一部なのは変わらないんですけど、周りに誘惑がないのは良いですね。集中しやすいから自分の弱みや強みが分かってきて、改善点や伸ばしていけばいいところが見えてきたんです。

ー外から情報が入ってこない分、自分と向き合う時間が増えますからね。

そうですね。練習中きつい時に「まだ頑張れるだろ?」って自分と対話したり、一人になれるところに行ってひたすら考えたり。そうすると自分の限界がどこにあるのかが分かってきました。

後は夢の実現のために、一般の方がもっと太鼓に触れる機会を増やさないといけないなあとか、そんなことも考えたりしますね。

ー「太鼓という楽器を誇りに思ってもらいたい」。これがその夢ですよね。“誇りに思ってほしい”というのは誰に対してですか?

以前サッカーと太鼓を両立していた時期があったんですね。まあサッカーは友人の付き合いだったんですけど、なぜかスタメンに選ばれていて。でも僕にとっては太鼓がメインだから、試合や練習に行けないこともあって。

そしたらまあ陰口されたり、ちょっとしたミスですごい怒鳴られたりとか。その流れで太鼓のことまでバカにされるんですね。それが悔しくて。

ー悔しい? ムカつくではなく?

言い方が悪いですが、序列があるとすれば低いんだなと思って。

ーそういうことですか。

だから太鼓をバカにしてきた人たちに、その存在を認めさせたいんです。自分の国の楽器が、人を感動させることができるすごい楽器なんだということを知ってほしいんです。そして、そんな太鼓のことを誇りに思ってもらえるようにしたいんです。

そのためにも今が頑張り時です。落ち込むこともあるんですけど、ネガティブな感情に負けないように、しっかりやっていこうと思います。

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▶︎記事の続きはこちら
スマホを持っていない“ミレニアル太鼓研修生”がバチを振るう理由 VOL.3

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【ギャラリー】写真家Lui Araki撮り下ろし:KODO

鼓童展覧展「青い太鼓」
鼓童展覧展「青い太鼓」が中目黒にて開催されます!
写真家 荒木塁が、実際に佐渡に足を運んで、研修生の姿を撮影した20点の写真と、9本の動画が展示されます。

日時:5/8〜5/13 11:00~18:30
場所:W+K+ Gallery
153-0051 東京都目黒区上目黒1-5-8
Google Map:https://goo.gl/maps/Yuv3bKnFrgL2

太鼓芸能集団鼓童の研修生。
彼らの音には観客もいなければ
スポットライトを浴びることもない。
あるのは己の体だけ。
しかし、自分を信じて叩き続ける彼らの太鼓は
あまりにも虚しく美しい。
これは覚悟を決めた何者でもない者たちによる
等身大のポートレイト。
「青い太鼓」


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※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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