「ウェブになくて、紙にあるものは?」初の紙版を出したウェブマガジンと、メディアの形態について考える“新しい会話”[NEUTALK vol.7] @NEUT BOWL 2019

Text: YUUKI HONDA

Photography: Miyu Takaki unless otherwise stated.

2019.11.14

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2019年10月26日、NEUT Magazineが創刊1周年を記念するイベント「NEUT BOWL 2019」を開催した。

場所は昨年10月に行われたリニューアル創刊イベント「NEUT BOWL」と同じ笹塚ボウル。ボウリング場を舞台に、音楽あり、トークあり、もちろんボウリングもありの催しが行われた。またアーティストたちのZINE、NEUT BOWL限定のスペシャルドリンクなどが販売され、イベントに華を添えてくれた。

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NEUTUNE(ニューチューン)と題し、maco maretsやMaika Loubtéによるライブ、がんこ(JUKE)・The Antoinettes・Mat Jr.(tokyovitamin)・udai(YouthQuake)のDJパフォーマンスが会場を盛り上げる横で、気鋭のクリエイターたちの作品やNEUTオリジナルグッズが並ぶNEUTSTAND(ニュートスタンド)が開店。このNEUTSTANDは、今年の夏に福井で行われた音楽フェスONE PARK FESTIVALのときにも共同出店したアーティストRagelow(レイジロウ)がブースを手がけた。多数のZINEが並ぶそんなブースでは、本誌連載者の中村元気が余ったパンの耳からできたビール「bread beer」を紹介していた。

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Photography: Hideya Ishima

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Photography: Hideya Ishima

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またその横で開店しているNEUTABLE(ニューテーブル)は、「ノンアルコールでカクテルを作る」というテーマで、ノンアルバー「Bar Straw」を招き、“ハーブのある生活”を提供する「Verseau(ヴェルソー)」のハーブティーと、“スケートカルチャー”と“みかん”をコンセプトとした「Tangerine(タンジェリン)」のみかんジュース、スパイシーなのに優しい「ともコーラ」のクラフトコーラとコラボし、この日限定のスペシャルドリンクを販売。それらが次々に売れていく。

そして、NEUT Magazineが創刊1周年を記念し、非売品として部数限定で制作した「PRINTED WEB MAGAZINE」を直接手に取って見られるブースも賑わいをみせた。

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このように多彩なコンテンツが詰まった今回の「NEUT BOWL」は、前回と同じく500人以上を動員。笹塚ボウルで開催される多くのイベントのなかでも屈指の盛況ぶりだった。

そんなイベントの見どころの一つとなったタブーのないトークセッション「NEUTALK vol.7」の様子をお伝えする。この日のトークテーマは、「『紙じゃない理由』と『紙にしたい理由』」。

さまざまなメディアが乱立する今も、その基本形は紙かウェブかという二者択一になる。それではなぜ紙なのか、あるいはウェブなのか。どちらも選べるなかで、どちらも必要だと伝えたい 。そんな思いで組まれたNEUT Magazineの1周年記念特集「PRINTED WEB MAGAZINE」から派生したトークセッションに、以下3人のゲストを招待し言葉を交えてもらった。

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左からJUN、柳下恭平、haru.、藤原章次

JUN:2018年10月に『Be inspired!』からリニューアル創刊した『NEUT Magazine』で創刊編集長を務める。「既存の価値観に縛られずに生きるための選択肢」をコンセプトとする同誌で、消費の仕方や働き方、ジェンダー・セクシュアリティ・人種などのアイデンティティのあり方、環境問題などについて発信している。

柳下恭平(やなした きょうへい):10代後半に世界を放浪。帰国後、複数の職を経て、校正・校閲の専門会社「鴎来堂」を創業。その後本屋と版元も立ち上げ、2018年9月には本棚専門店をオープン。出版業界のほぼ全域に関わる。「〆切の妖精」と「知のドワーフ」の愛称で親しまれる。

haru.(ハル):アーティストやクリエイターのサポート事業を行う株式会社HUGの取締役。インディペンデントマガジン『HIGH(er) magazine』創刊編集長。『HIGH(er)magazine』は「私たち若者の日常の延長線上にある個人レベルの問題」に焦点を当て、「同世代の人と一緒に考える場を作ること」をコンセプトにファッション、アート、写真、映画、音楽などの様々な角度から切り込む。

藤原章次(ふじわら あきつぐ):大学在学時より企業でのインターンで経験を積み、兄と共に家業である老舗の印刷会社「藤原印刷」を継ぐことを決意。環境系ベンチャー企業の立ち上げに参画したのち、2009年に同社へ入社。流行りのファストな印刷ではなく「心刷(しんさつ)」をモットーとし、「紙の魅力は何か」という本質を常に問い続け、企画段階から作り手に寄り添う本づくりを提案している。

ウェブになくて紙にはある5つの要素、特集「PRINTED WEB MAGAZINE」

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JUN:「ウェブになくて紙にあるもの」を言葉にして、そして実際にモノにできたらいいなと思い「PRINTED WEB MAGAZINE」という特集を組み、ウェブにはないけれど紙にある5つの要素を紹介しつつ、400ページの紙版「NEUT Magazine」を作りました。今回僕のなかで、「なぜ紙にするのか?」という問いを考え続けたんですが、これをみんなで考えられる場所や時間を作りたいと思って、今日はゲスト3人と皆さんで、紙とウェブについて話しあえたらと思います。

司会の『NEUT Magzine』編集長JUNがこう切り出して始まった「NEUTALK vol.7」。

前述の特集「PRINTED WEB MAGAZINE」では、紙にあってウェブにない要素として「Color (色)」「Scent(匂い)」「Weight(重さ)」「Form(形)」「 Archive(記録のあり方)」の5つを挙げて、400ページの“紙版のNEUT Magazine”を制作した。

※動画が見られない方はこちら

紙とウェブにはそれぞれ違った魅力があるが、では端的に、「なぜ紙なのか?」。このシンプルな質問からトークはスタートした。

なぜ“紙”なのか? 紙に印刷して表現する理由

haru.:私はもともと紙が好きで。友達と回し読みできるところとか。モノとしての存在感というか、買ったときの記憶が残るところとか、そういうことが感じられるから好き。

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haru.

haru.は、自身が編集長を勤める『HIGH(er) magazine』を「情報発信のメディアとして考えていない」と言う。彼女の感覚でいえば「『HIGH(er) magazine』は作品でありタイムカプセル」であるのだとか。

また彼女は、たびたび手に取れるものとしての存在感を重視していると話している。「日本のニューメディア」をテーマに開催された「NEUTALK vol.4」では、こう発言していた。

紙媒体のZINEにこだわる理由は、物体には何らかの感覚や空気を思い出させる力が絶対にあると思ったからです。物体に宿る力というか。表現するのは難しいんだけど。あとは私、お守りとかが好きだから、それと同じ感覚で持ち歩きたいっていうのもあるかな。NEUTALK vol.4 レポートより)

なぜ紙なのかと問われれば、「それが手に取れるリアルなものであるから」というのがharu.の回答になる。あくまで個人の胸のうちから湧き出る問題提起や好きな物事に対するリアルな感情を誌面に載せてきた『HIGH(er) magazine』にとって、紙という形は相性もいいのだろう。

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藤原章次

またここで気になる言葉を残してくれたのが、藤原印刷の藤原章次。

多種多様な印刷物を日々目にしている彼は、実感値として紙媒体を作りたいという個人が増えていると話す。しかもその理由が、「昔はウェブがなかったからなんです」。

一体どういうことだろうか。

紙版NEUT Magazineを制作した理由と、ウェブ版との違い

藤原:作った本を販売してもらうために、昔は地道に一軒一軒本屋さんに行って、「すみません。自分の作った本を販売していただけませんか?」と交渉していました。しかし、今はウェブやSNSを通して情報が拡散できるため、瞬時に多くの本屋さんに本を作ったことを伝えられ、その結果自分の本を販売してもらうことも容易になりつつあります。だからこそ、本を作ることへのハードルが低くなり、個人の方からの「本を作りたい」という要望は年々増え続けています。

なにかと対立軸で語られがちな“紙とウェブ”だが、ウェブの普及で個人が紙媒体を制作しやすくなったという視点はあまり話されていない。

しかし紙媒体にかかる印刷、輸送、保存などのコストは変化せずにいる。そこは今でもウェブの方が圧倒的に安価だ。それでもなぜ紙なのかという点について藤原は、「思いを形にしたい」という気持ちがそうさせるのではと話す。

藤原:僕は「こういうものを作りたい」という思いをより表現できるのが紙だから、紙媒体を作りたいという人が増え続けているんだと思います。“紙版NEUT Magazine”の表紙の色だって、JUNくんの要望に応えてウェブ上では出せない特別な色の“NEUT ORANGE”を作って使ったわけじゃない?

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“紙版NEUT Magazine”
Photography: Hideya Ishima

これに対してJUNは「確かにそうですね」と答え、“紙版NEUT Magazine”を作った経緯について話し始めた。

JUN:僕は今回「なぜNEUTを紙にするんだろう?」と考えながら作っていたんです。NEUTはいろんな人に読んでほしい情報を発信しているから、デジタルデバイスとWi-Fiがあれば誰でもいつでも読めるウェブが合っていると思うので。ただ、“表現”に関しては紙の方が幅広くできていいですよね。ウェブには質量も重さも匂いもないし、スマホとPCの画角でしか見せられないし、紙ほど多彩なエディトリアルデザインもできないので。でもウェブでは毎月十数万人が読んでくれているのに、紙だとそこまでの部数を刷るのは難しいですよね。いろんな人に読んでほしいからこそ、ウェブほどの読者数が望めないことに葛藤はあって…。

と少々言葉に詰まったJUNに、「その葛藤ってこういうことじゃない?」と朗らかな声で言ったのは柳下恭平だった。

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柳下恭平

柳下:アートと情報発信で分ければいいんじゃないかな。最初の方でharu.さんが「『HIGH(er) magazine』は情報発信ではなく作品やタイムカプセル」だと言ったけれど、それってアートだよね。要は“表現”で、それは紙のほうが向いていそうだなというのはharu.さんと藤原さんの言葉からも分かるし、潤くんもそう感じてる。で、潤くんは今「NEUTで情報を発信している」と言ったけど、それって作品的というよりはメディア的だと思うの。

JUN:アートと情報発信…というか作品とメディアという分け方?

柳下:そうそう。“紙とウェブ”より“作品とメディア”という分け方。この方がすっきりしそう。紙は表現の幅が広い分アートに向いていて、ウェブはたくさんの人に読んでもらえるから情報発信に向いている。

JUN:なるほど。

柳下は校閲の専門会社「鴎来堂」を創業後、本屋・版元・本棚専門店も立ち上げて、今や出版業界のほぼ全域に関わっている。そんな彼だが、紙の本が好きというのは大前提にしても、ウェブに偏見はないという。どちらも好きだと明言する。

紙の本に長年携わり続けてきたうえでも偏らない彼のニュートラルな視点が、「“紙とウェブ”より“作品とメディア”という分け方がいいのでは」という一定の回答を導き出したのは、必然だったのかもしれない。

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Photography: 橋本美花

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時代に求められる“編集”されたアーカイブ

トークは終盤、アーカイブをテーマに進んでいった。

きっかけになったのは、「アートとメディアでアーカイブに違いはあるのかな?」というJUNの一言。アーカイブの定義を、歴史的な記録および、個人や団体が生み出した記録の集積としたとき、紙にしろウェブにしろ、日々新しいコンテンツが生まれている今、それらはどのように記録されていくのだろうか。

さまざまな形で世の中にコンテンツを届け続けている4人が、その点についての議論したクロストークをなるべくそのまま伝える。

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JUN:ちなみに僕のなかで“紙版NEUT Magazine”は、紙だけど作品ではなくメディアとしての情報発信なんです。表紙にQRコードがあるんですけど、これは現実社会からオンラインに飛ぶためのドアとして使ってもらうイメージですね。ただ情報発信といってもそこに共感は呼びたいと思ってます。ただただ最新の情報を流すメディアとNEUTは違うし。だからいろんな方法を考えてて。

haru.:最近ラジオもやってるもんね。

JUN:あれは時事性もほとんどないし、アーカイブというか…。ちなみにアーカイブって、それを研究している人によれば、情報をそのまま集めたからアーカイブになるんじゃなくて、それを未来に伝達するものという意味で考えられているそうです。haru.と藤原さんはアーカイブってなんだと思いますか?

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haru.:私は『HIGH(er) magazine』を作ることがアーカイブになってるのかな。『HIGH(er) magazine』は私の周りにいる人たちへのタイムカプセルなんだけど、それができるのは情報発信をJUNや他のメディアがやってくれているからで。私はそのメディアからこぼれ落ちる何かをタイムカプセルに込める感覚で『HIGH(er) magazine』を作ってるんだよね。うちらが大人になったときに見返せるように。それがアーカイブになっているのかな。

藤原:もともと印刷って、キリスト教の聖書をたくさん刷るってところから歴史が始まっているんだけど、その時代から何十人って人が関わったうえで作られる本が持つそれぞれストーリーは、これからも語り継いでいくべきだなと思っています。

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JUN:ありがとうございます。では柳下さん。柳下さんには特集「PRINTED WEB MAGAZINE」にアーカイブに関する寄稿をしてもらいましたが、柳下さんの思うアーカイブって何ですか?

柳下:僕はアーカイブの権威でもなんでもないんですけど(笑)例えば図書館に本がいっぱいあるだけではアーカイブとしては機能してないと思います。どこにどの本が収まっているかが書いてある目録があってこそアーカイブとして機能するんですね。だから何かを集めたうえで、それを編集する。その状態がアーカイブだと思います。

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以上が、「紙じゃない理由」と「紙にしたい理由」をテーマにした1時間のNEUTALKのダイジェストとなる。

誰もがウェブや紙を媒介に発信者になれる現代は、玉石混交のコンテンツが溢れかえっている。そんな今だからこそ、自分なりに情報を編集しアーカイブしていく力が求められるのではないか。

というのも、アーカイブには物事を記録し未来に伝えるという意味がある。無数にあるアーカイブの一つ一つが、後に誰かの助けになり、誰かの歩みの土台になってきた。そして誰もがその恩恵を受けている。

これからもその土台を築き続けるために、この情報過多な時代に起こる物事を吟味し、それらを自分なりに編集し、誰のためともなくアーカイブしていく。それで報われるとかそういう話ではなく、そうすることに意義があるのだ。

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では最後に、クラウドファンディングで支援してくださった方々、NEUT BOWLのために駆けつけてくれたゲスト、スタッフの皆さま、そしていつも『NEUT Magazine』を読んでくださっている読者のみなさま、本当にありがとうございました!

2年目もNEUT Magazineをよろしくお願いします!

[Talk Guests]

柳下恭平鴎来堂かもめブックス

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Photography: 橋本美花

haru.HIGH(er) magazine株式会社HUG

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藤原章次藤原印刷/桑沢デザイン研究所非常勤講師)

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Photography: 橋本美花

[Live Performers]

maco marets

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Maika Loubté

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The Antoinettes

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Photography: Hideya Ishima

Mat Jr.tokyovitamin

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Photography: 橋本美花

がんこJUKE

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Photography: Hideya Ishima

BOBBY & udaiYouthQuake

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[NEUTSTAND(CREATORS’ ZINES&GOODS)]

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COLLABORATOR
Ragelow

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CREATORS’ ZINES
HIGH(er) magazine
小林真梨子
Kisshomaru Shimamura
KYOHEI HATTORI
Mika Hashimoto
EA magazine
KATAOKA RYOSUKE
坂内まこと
KOTETSU
Ruru Ruriko & まりあんぬ
Koki Nozue

ちるちるちる
DAIKICHI KAWAZUMI
Ameya
Sara Hirayama

GOODS
bread beer

[NEUTABLE]

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Photography: 橋本美花

Bar Straw
ともコーラ
Tangerine
Verseau

[Artwork]

KATAOKA RYOSUKE

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moka

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[Special Sponsors]
笹塚ボウル

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藤原印刷

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NEST PUBLISHING

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[Sponsors]
黒鳥社

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Henge

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[NEUTクラウドファンディング STRIKE SPECIAL SUPPORTER]
Kenji Tanaka

[NEUTクラウドファンディング TURKEY SPECIAL SUPPORTER]
青木 竜太

 

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