【最終回】東京で「五感」を使って生きることもできる。ベイン理紗が国内外の農家を訪れた1年間でたどり着いた答え|FEEL FARM FIELD #006 後編

Text & Artwork: Lisa Bayne

2022.12.7

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6回目の後編である本記事で終了するこちらの連載『FEEL FARM FIELD』。前編では連載1回目から登場し、畑を貸してくれた「0site」のファウンダー古山憲正と、パートナーで「空蝉」のファウンダーの美左紀ちゃんにインタビューをおこなった。

ここからは、この1年を振り返りながら私にどんな変化や発見があったのかをお伝えしたい。

#000を綴った最初の時、私は言いようのない不安と怒りや孤独感に包まれてぴりぴりしていた。新型コロナウイルスをきっかけに、犯人探しを色々な場所でしているような不気味な社会に参加している自分自身が奇妙に思えたし、終わりの見えない緊張感に疲弊していたんだと思う。そんな最中にのちに0siteを立ち上げる憲正とビデオ通話で再会し、さらに1回目の緊急事態宣言が終わってすぐの頃、本当の再会を果たした。ようやく怒りが少し収まって、不安を取り除く居場所はどこかにあるんだと希望を持てた。

#001では、最終回の前編でいただいた食事にも使われている「いとう農園」さんの農業を手伝ったのち、自分の畑を耕して初めてタネを植えた。何にびっくりしたかって、農家さんって、1日あっても足りないんじゃんって。24時間365日、ずっと新生児を育てるかのように野菜と向き合って、日々変化する気候や生き物をケアしながら野菜を食べてもらうために動いてる。私は目の前にあるご飯をすぐ食べることができるけど、そのために農家さんはどれだけの命を使ってるんだろうと、純粋に驚いたし、ハッと、そしてシャキッとしてしまった。この時から、食や農を通して社会がどう繋がっているかについて考えることが多くなっていった気がする。

#002では初めて自分の育てた野菜を口にした。ルッコラを数株、レタスを数株。合計10本にも満たないし、一番育てやすいと言われているトマトは1つも食べられる実ができなかったけれど、ワークショップで人がそれらの野菜をわたしの目を見て美味しいと言いながら食べてくれた光景が何よりも大きな収穫だった。同時に野菜という食材とそれを作っている農家さんがもっと光の当たる、消費者と顔を合わせる機会があるとしたらなにか変えることってできるんだろうか、もっと食と農を意識することができるんじゃないか、と考えていた。

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そんなことを実際に考えて事業をしていた人に話を聞いたのが#003に出てくる西川幸希さんだったのだ。私はこの時には最初に抱えていた怒りや孤独感はうすれていて、この感情を吐露させてくれる人が周りにいる環境に助かっていた。憲正、幸希さんと続いて受け入れてくれる人がいることに安堵したし、さまざまなニュースや世の中の流れに絶望していたけれど、それを変えようと前を向いてる大人っているんだ、よかった、みたいなね(笑)。 尖ってる20代があがいてるところを助けてくれる助っ人が現れた!という感じだった。

そして#004では養鶏場を営む「ROOSTER HEN HOUSE」のもとへ。災害をきっかけに東京で暮らす環境を見直し、パンクロッカーから農家に転身したみつさんのもとへ話を聞きに行った。彼に取材を行いながら、まさに追体験している自分自身に希望を持てたし、ここから少しずつ食と農、そしてそれらとわたしたちを繋ぐ社会がこれから先もっと身近になるために必要なものは私たちの中にあることを確信し始めた。

#005では日本を飛び出し、はるばるドイツの農園へ足を運んだ。WILMARS GAERTENのオーナーであるマリアが言った「本当の意味での持続可能な場所づくりと生活」はどんなことなのか、私たちが意識しなければいけないことはなんなのかについてすごく考えさせられたし、食と農を通してコミュニティを広げていくという行為を実践しているこの場所に行くことは今の私にとても必要な時間だったと思う。

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この5つの場所にいる人たちはそれぞれ異なる考えや役割を担っているけど、彼らが一貫して実行していることがある。それは、自分自身の五感と向き合って、感じていることに正直でいること、心と身体のバランスを受け入れてあげること、目の前に存在する対象に集中していること。そうすると、わたしたちの食事をはじめとした生活様式の中で必要不可欠とされる行為がいかに社会と繋がっているかを思い知らされる。

私はこの1年間、畑を始めて、農に関わる人たちと出会って、東京と山梨を行き来する日々を送るようになって一番変わったのは、自分の心と身体に目を向けて耳を傾けてあげる時間をつくるようになったことだ。そうしてあげると、夏は夏野菜が食べたくなるし、冬は芯から暖まる食べ物を求めてることがわかった。体力がない時はタンパク質を欲して肉や魚が食べたいと思うし、集中できない時はお菓子が食べたくなる。イライラしているときや何もしたくない時はジャンキーな食べ物を食べたくなる。それまで私が意識していたのは時間、効率、速さばかりで、自分の中でだけ呼吸をしていて、いかに24時間を自分じゃない時間に使えるか、ばかりだった。

そして気付いた時には既に身体はSOSを出していて、心も疲れ切ってしまうようなサイクルが出来上がってしまっていた。このサイクルにまた自責の念を抱いちゃう、みたいな。前編で美左紀ちゃんが言っていた「東京にいた頃は自分でやりたいことを必死に手繰り寄せてたのに、今は逆に身を委ねてやりたいことをこなしていくような感覚が凄く気持ちいい」という言葉が印象的だった。

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今のこの日本や世の中で突然訪れる暮らしの変化や生活の局面を乗り越えるためには、敏感にならなくちゃいけないタイミングが何度もある。そういった環境に身を置いている中で、1つ1つの出会いと向き合って受け入れることはとても簡単で難しくて、すごく貴重なんだと思う。

わたしたちの身体は、住んでいる環境に“自然と“繋がっている。それらに気付かず生きていくことは簡単かもしれないけど、自分の身体に応えてあげてもいいんじゃないかと思うんです。

ただ前提として言えるのは、私たちは人それぞれであり、好き嫌いも違うし、どう感じるかはみんながみんな同じじゃないということ。

その人ぞれぞれ持っている考えを表に出すとか、自分たちの五感に向き合ってみるということを畑や農だけじゃない、ありとあらゆる場所を通してしていいはず。いや、していける世の中であるべきだと思ってる。それらが完全に忘れ去られてしまわないように、これから先表現することに億劫で悩むような人が少なくなるためにも、それぞれが目の前でおきていることに集中できる時間が必要なんだと今回の体験と連載を通してわかった。

ご飯を味わう、食事をするっていうのはすごく社会的な行為だし、ご飯1つに集中するだけで、世界の広がり方や見方は変わる。毎日当たり前に無意識に行う行為だけど、本当はそこにこの連載で書いた全部が詰まっていると思ったら、食って本当に最強だと思わない?

五感は地方や自然のある場所に行ったらあるものな訳じゃない。普段の生活の中にある五感を、どこにいても意識できると思う。食べ物も別にコンビニのものが悪いわけではない、その目の前の食べ物や食材に集中した時、何を思うかだと思う。良いもの悪いもの、良い場所悪い場所というのは誰かが決めるわけでもない、勝手に決められちゃごめんだ。

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今自分が生活している環境の中で、その環境に集中すること、その意識を持つだけで変わる。その上でフィールドが変わっていくのなら、それが今自分の心と身体に沿った行き先なんだと思う。まずは自分の身体に目を向けること。それはどこで何をしていても、私たちにできることなのだ。それが難しければ、憲正と美左紀ちゃんのように拠点を変えて比べてみてもいいかもしれない。今までは自分の身体を通して感じる五感と、食事を通して感じる自然はめっきり別のものだと思っていたところから、少しずつその境界線が緩やかになって、いつしか繋がってることを知った。そういう意味では、食と農を通して自分の五感に気付いていくというのは一番身近で簡単で、一番の発見があるかもしれないベストな方法だとみんなに勧めたい。

この連載は1年前に企画書と今考えていることを編集長の潤くんに持ちかけてはじまったけど、まさに自分の心と身体のバランスを整えなくちゃいけない日々が続いて、たくさんのサポートを周りにしてもらいながらやってきた。いつも書きたいことが多すぎるしまとめるのが苦手な私の文章を手伝ってくれた副編集長のNoemiさん、撮影や取材に協力してくれた出演者のみんな、最後まで読んでくれたNEUT Magazine読者の皆様、本当にありがとう。この記事を読んだ後からの食事がより美味しく、より集中できるものになっていることを願っています。またどこかで。;)

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