「本当の意味での持続可能な場所作りと生活をする」ドイツの農園をベイン理紗が訪れる|FEEL FARM FIELD #005 中編

Text: Lisa Bayne

2022.10.5

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前編に引き続き、1ヶ月半かけてヨーロッパ8カ国18都市を回る旅をしたこの夏のことを綴っている今回の連載。

突然だけど、ここで1度、これまでの連載に登場してくれた人や場所を振り返りたい。初めに取材したのは山梨県北杜市に拠点を置く0siteのファウンダーである憲正。「原点回帰」をテーマに、畑を持ちながら地域の人と連携したワークショップを開催したり、廃校を利用した貸しスペースを運営したりしてコミュニティづくりを続けながら、利用者がそれぞれの初心に立ち戻れるような場所づくりをしている。同じく北杜市が拠点であるROOSTER HEN HOUSEも養鶏農場として、山梨や東京でイベントやフェスに出店するなど、卵を通して消費者とのつながりをいろんな形でつくっている。FARMERS AGENCYの元代表であるこうきさんは山梨県韮崎市にギャラリーや飲食店などを運営するオルタナティブスペース「LMM」をオープン。そして東京都世田谷区に店を持つ八百屋兼居酒屋イエローページセタガヤは、先日9月25日に2周年を迎えた。八百屋や呑み屋の運営はもちろん、デリバリーサービスや料理人とのコラボレーションをしている。

みんな、大自然を相手に、生産者と消費者を密接につなぐため挑戦し続けている。そして同じような場所や人が、日本を出た先にもあった。それが、ドイツの中心であるベルリンから2時間ほどの大きな土地を拠点にする農園「WILMARS GAERTEN(ヴィルマーズガーデン)」だ。

農園はドイツの首都ベルリンに隣接する都市ポツダムから特急列車に乗って30分ほどの場所にある。そこは、静かな住宅街に駅がぽつんとあるような町。駅を出て専用のトラクターシャトルバスに乗り、街並みから有り余る土地に変化していく景色を横目で見ながら農園へと向かった。

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15分ほどで到着した矢先に、大きな畑と庭園の門前でオーガナイザーであるMariaが犬のWillmaと共に出迎えてくれた。

このヴィルマーズガーデンの由来である「Wilmersdorf」はベルリン内に存在する地名なのだが、WILMAR(will=意思)(mar=大きい)という単語からこの名がついたそうだ。この土地を自然と私たち人間のためのオアシスにするという強い意思が込められている。

オーガナイザーのMaria本人にWillard Garten内のツアーをしてもらいながら、庭園内のいわば青空レストランと言える場所まで歩いて向かった。

この農場が始まったのは約4年前。数年後に土地の返還を行うことを前提に、パートーナーと360ヘクタールを購入したそうだ。自分たちで時間をかけて木々を植えることで土地を再生し、牧草地と耕作地として開拓したという。ちなみに、360ヘクタールは東京ドーム約80個分。公式サイズのサッカーコートが800枚並んでいると思ってもらいたい。畑はすべてにおいて無農薬であり、なるべく手作業で人工のものは使わず、身体に入れたくない化学製品は一切使わないことがポリシーだ。

毎年畑のための耕作地を着々と増やしているそうで、小さな作業古屋を囲むように大きく7枚の畑が広がっている。すべての植物や野菜、果物が苗床で種から育て上げられており、野菜は70種以上。また植える木々や野菜の場所、植え方も計算され尽くしており、自分たちが植えた野菜や木々が他の虫や動物、土壌の邪魔にならないよう最小限の水やりを行っているのだ。2018年には10ヘクタールの耕作放棄地に50種以上の果樹とナッツの木々を550本植えたという。トマトだけで10種、野菜は70種以上育ててきた。

さらに養蜂もおこなっており、蜜蜂の特性や知能を生かし、蜜蜂のための植物の栽培と巣までの通り道をつくることで蜜蜂が生活をするための環境と場所を提供している。

当時土地を購入したばかりのMariaは画家として活動していた。耕作についても農業を営むことについても何もわからなかったのにもかかわらず行動に出たのは、自分が日々過ごしている世の中で起きていた問題について考えるようになったからだと言っていた。

毎日深刻化していく環境問題や、増えている災害に対して何かをしなくてはいけない、未来をよりよいものにするために動きたいという漠然とした思いがパートナーとともに共通してあった。そしてたどり着いたのが、この土地を使って景色を作ること、場所を作ること、それらを人と共有することだった。この地球の中で人間を含んだすべての生き物たちが生活できるような生き方をするには何をしなくてはいけないのか、時間をかけてこの土地を活用することでトライアンドエラーを繰り返して考え、実践していく場所として機能している。

そんなMariaには、ありとあらゆる生き物とともに過ごす私たち人間に忘れてほしくないことがあるという。

「私のゴールは、この地球で生きていく中で本当の意味での持続可能な場所作りと生活をすること。土や木々も含めて、いろいろなものでこの地球は成り立ってる。私もあなたも、人間がそれらを壊し続けている一員であるということを覚えておかなければならない。そして同時に、わたしたちはこの地球の中の主役にも支配者にもなるべきではなく、参加者の一部であるということをもう一度改めて考え直さなくちゃけないと思ってる」

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この360ヘクタールという広大な土地の中で行われているのは一般的な畑にとどまらない。WILMARS GARTENを中心に、食を通していかに生活することが貴重で、生き物とともに過ごすことがすばらしいかを積極的に発信するためのツールが用意されている。

その1つが毎週土曜日に自主的に行なわれているファーマーズマーケットだ。そこでは採れたての野菜や蜂蜜のほか、WILMARS GARTENが自信を持って勧める卵や肉、乳製品などが並ぶ。

Mariaは耕作だけではなく養鶏や酪農などの取り組みにも手をつけていきたいそうで、来年は家畜を育てて肉類なども自分たちの手でとれた物を届けたいという。0から目に見える形で、必要な分だけを自然からいただき、それらに日々感謝をすること。生き物と持続可能な世界を作るためのサイクルを作ることを続けていきたいと構想を膨らませていた。

定期的に開催されるイベントの中には、ボランティアデーとして農園体験やワークショップに料理教室など、食を通して人々を繋げながらコミュニティをさらに広げている。それだけにとどまらず、インターンを受け入れ、農家としてのプロセスや教育を学ぶ環境を作ることでさらなる就農者や後継者を生み出すために貢献している。

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絶対的に必要不可欠でありながら後退傾向にある農家というポジションをいかに一般家庭やコミュニティに広げていくかを工夫して考えて機能させるにはかなりの労力とアイデア、洞察力が必要になるはず。

過去の記事でも述べたように、実際に農家さんのもとを訪れると、農家という仕事と生活にどれだけの仕事量とバイタリティが必要とされるのかを知ってとても驚いた。それをこなしながら、外部との繋がりを積極的にとる自主性を持ち、コンスタントにイベントを企画するアンテナの張り、それらをインディペンデントに行なっているMariaはすごいと思う。

「すごい」と一言で締めくくるのはかなりの雑かもしれないが、本質的な場所作りや自然と共生するためのプロセスを身近で見て感じられてすごく嬉しかったし、また日本に持ち帰るべき体験ができた気がした。Mariaはこのような活動を続ける中で、いかに消費者が重要なポイントであるかを話している。

「消費者であるお客さんがどんな選択をするか、彼らを取り巻く環境がどのようなものかによって私たち農家に返ってくる影響は大きく変わる。だからこそその中で責任を持って食材を届けることやケアするうことにやりがいを感じるし、その立場にいられることを誇りに思っている」

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庭園内のほとんどは手入れされた様子がなく、気持ちの良い風と虫や鳥の声が響くだけの道がずっと続いていて、しばらくただ歩き続けた。隅には湧き水が出ていたり、湖がいきなり現れたり、何故か急に不耕起栽培であろうズッキーニの集団がすくすくと道の横で育っていたりと、奥の奥まで澄み渡る広大な景色に気を取られていてばかりだった。

数時間が経って散歩から戻ってくる頃に、行きのトラクターシャトルバスで同席した人たちと再会した。そう、今回の目的は農園だけじゃない。WILMARS GARTEN主催によるスペシャルイベントに参加させてもらったのだ。

後編ではイベントの様子をレポートする。

#000 畑からお届け。モデル・ベイン理紗の連載がスタート
#001 前編 モデル/アーティスト・ベイン理紗の初めての畑づくり「初めまして北杜市。こんにちは0site。よろしくベイン畑」
#001 後編 世界と日本を回りながら社会を見つめた一人の表現者が「0(ゼロ)になれる場所」をつくったわけ
#002 前編 「初めましては、ルッコラとレタス。そして、いただきます」ベイン理紗が育てた野菜を初めて食べてもらうまで
#002 後編 「さ、畑やってみよっ」都市での野菜づくりHOW TO教えます!
#003 大人が若者の話を「聞く」ことの大切さ。ベイン理紗が畑を始めるにあたって手を差し伸べてくれたFARMERS AGENCYの元社長・西川幸希との対談
#004 前編 「葉大根」が生んでくれた「初めまして、久しぶり、Hello!」。モデル/アーティスト・ベイン理紗が自分で育てた野菜を収穫し、東京で配ってみた
#004 後編 パンクロッカーから養鶏農家に。ベイン理紗が東京から山梨に移住した先輩に聞いた、人生の転機
#005 前編 ヨーロッパと日本のフリーマーケットや畑の公共性の違いから読み取る国民性
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