ベルリンのレストラン×郊外のサステナ農園がタッグを組んだ青空レストランを訪れたベイン理紗が気づいた「体験の大切さ」|FEEL FARM FIELD #005 後編

Text: Lisa Bayne

2022.10.6

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前編中編に引き続き、1ヶ月半かけてヨーロッパ8カ国18都市を回る旅をしたこの夏のことを綴っている今回の連載の最終編では、WILMARS GARTEN主催によるスペシャルイベントをレポートする。

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今回のイベントはこの夏限定で3週にわたって行なわれた、青空レストラン。ベルリンに拠点を置くレストラン「ernst」と「JULIUS」が、WILMARS GARTENの夏野菜を使った料理を青空と木に囲まれた場所で提供する。

採れたての野菜、果物やハーブ、信頼のある取引先から取り寄せた肉や魚、乳製品。それらをふんだんに使ったスペシャルコースが用意されていた。

レストランスタッフは週末の本番に向けて平日の営業が終了した後に農園へ向かい、仕込みや食材の収穫、準備を行なう。そして当日早朝に畑へ出向き、収穫した野菜や仕入れた乳製品などをみてその日のコースメニューを考えていく。農園内にある講堂の前をキッチンにして調理するスタッフ、その横に置かれた窯で火を焚くスタッフ、ワインを並べテーブルメイキングをするスタッフとそれぞれの役割に沿って青空レストランを創り上げていく。彼らはこのイベントが開催されているあいだ、泊まり込みでMariaと相談しながらサービスを提供してきたそう。彼らのコラボレーションで完成された空間と料理は、新緑と木陰と青々とした空とも相まって特別優雅な時間を与えてくれた。

このイベントに参加した人々は国際色豊かで、職もさまざま。共通項はわざわざ時間をかけてこのイベントに足を運ぶほど、愛食家であるということだ。ここで少し、今回Willard Gartenが共にスペシャルイベントを行なうことになったレストラン「ernst」と「Julius」について紹介させて欲しい。

この2つのレストランはベルリンの中心街から少し離れたWeddingという場所に店を構えている。スタッフは両店ともにほとんどが20-30代でありながら国際的にも評価される勢いのあるレストラン。両方のレストランの共同設立者の1人でカナダ人のシェフであるDylanが一番最初に修行したのが実は日本であり、その後アジア、米国、北欧で経験を積み、2018年に「ernst」を、そして2020年に「JULIUS」をオープン。店には多くの日本人が在籍している。NEUT Magazineのyaeちゃんによる連載「Fork and Pen #003」で当時目黒にあるレストラン「kabi」でソムリエとして登場した大森澄也さんは2021年より「ernst」でソムリエとして在籍している。

農家と対面しながら、厳選した素材を使ってどんなアプローチをしたら客を楽しませられるのかを考える。生産者と消費者の間に立ちながらどれだけ満足して帰ってもらうか。そしてそれらの試行錯誤と実験をWILMARS GARTENも両店も、本人らが一番に楽しんで考えて自信を持ってサービスを提供している。

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コースの品は全部で16皿。最初に朝収穫したフレッシュな食材の数々が出てきた。甘くシャキシャキとしたかぶやにんじんや、ギュッと果汁の詰まったプラムをグリルしたものなど色とりどりの野菜が並んだ1皿。その後は牡蠣と胡瓜を使った料理が続く。「ernst」はレストラン営業がメインで「JULIUS」ではモーニングである。

そして「ernst」の醍醐味といえば皿数の多さと1皿1皿のボリューム感、素材へのこだわり。そのまま食材の甘味や食感を活かしたものや、シンプルなアレンジを加えてさらに旨味を引きだしたものなど、頭から爪の先まで1皿を出すまでの緻密な構成がされている。そしてところどころに日本文化の割烹における技法やスタイルが取り込まれているのである。

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こちらの左上は、ビーツをマリネしてからシソに挟んだもの。どちらも採れたてで香りが良く、表面には出汁をかけている。中央上はとうもろこし、右上がズッキーニだ。このズッキーニには、味噌と出汁のコクがあるソースにライムを加えることで、ズッキーニの旨味とフレッシュ感が一気に倍増していた。左下に見えるのは、甘味の強いトマトに塩味が効くキャビア、出汁を合わせた1皿。

同席していた他のお客さんたちも料理の詳細を聞いた際は怪訝そうな様子だったけど、口にした瞬間大きく頷きながら美味しそうに味わっていた。右下は、グリルしたトマトの上に紫蘇と花が添えられた1品。写真から見て取れるように、1口で食べられるものや手でつまめるものが中心であるからこそ、バリエーションや意外性を楽しみながら料理の掛け合いとレストランの実験的アイデアを食を通して体験できるのだ。それらをWILLMARS GARTENが自然とともに育てたありとあらゆる素材とその特徴を見極め、丁寧に捉えていた。

もちろん私は食のプロフェッショナルでもなく食通とは程遠い人間ではあるけれど、誰しもが食をいただくことの素晴らしさや楽しさを大いに味わえる体験と空間だった。

午後8時を過ぎて、日本よりはるかに日が長いヨーロッパも暗くなり始めた頃すべてのサービスが終わった。帰りは1時間に1本しか走らないベルリン行きの特急列車のためにトラクターシャトルバスを全速力で飛ばしてもらい、駅まで同席した方々と全速力で走ったのもよき思い出。

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実際に農家さんを目の前にしながら、農家さんが育てた食材を料理にしていただく経験は、なかなかハードルが高いと思うかもしれない。いろいろな理由があるけれど、例えば苦手な食材(もちろん、アレルギーや体調面を考慮した場合は別だけれど)はほとんどの人にあるはず。味や食感がどうしても好きになれない、匂いや形から受け入れられない、とか。それは私にもある。実は私は物心ついた時から生のトマトが大の苦手。トマトのプチッとした食感とジューシーさがどうしても好きになれていない。けど大人になって食に興味を持ち始めて、食材がどこからきてどうやって私の元に届けられるのかを知るようになり、少しずつ食材そのものだけにフォーカスをしなくなっていった。

その向こう側の、誰が作っていて、その人はどんな人でどんな考えを持って育ててるんだろうとか、このトマト1粒を私が食べるとして、それまでその人が費やした時間とか努力ってどれくらいなんだろう、とか。そういうことを考え始めると、意外にも苦手な味と食感よりも、その食材のストーリーへの関心の割合がどんどん多くなることで口に運べるようになる。そして、初めてトマトの美味しさを知ることができるようになってしまうのだ。もちろん、無理して食べなくていい時は事前にトマトを抜いてもらったり、一緒に食べている人に譲ったりするけどね。

農家さんを目の前にしながら食べるということは、そういう体験ができるきっかけになる。そしてそんな体験の価値をWILMARS GARTENは信じているし、「ernst」や「JULIUS」も同様、食材と料理を通してその可能性を開こうと日々進化し続けている。そうなったら、私たち消費者やお客さんという立場が食について意識を高めることも、目の前にある料理や食材を楽しみながら考えてみることも、環境について知ることも、そんなにハードル高くないよね?と思うんです。

食事をはじめとした私たちの生活の周りに与えられたすべてのサービスの向こう側で誰が何を考えて、どんな問題と向き合っているのかを想像してみて欲しい。その中で私たちがどんな意見を持っていて、どこに意識を持って生活していくか、私たちも今一度考えて実行してみるときが既に来ている。そしてそれらはとても簡単なことであり、形を変えて楽しむ術は、この便利すぎる世の中にたくさん存在しているということをヨーロッパで教えてもらった。

そんな5回目の記事の終わりを迎えて、次の6回目でこの連載も最後となる。最後の連載ではいままでの記事を振り返りながら、この1年間畑を通して触れ合える体験の素晴らしさについてまとめていきたい。

#000 畑からお届け。モデル・ベイン理紗の連載がスタート
#001 前編 モデル/アーティスト・ベイン理紗の初めての畑づくり「初めまして北杜市。こんにちは0site。よろしくベイン畑」
#001 後編 世界と日本を回りながら社会を見つめた一人の表現者が「0(ゼロ)になれる場所」をつくったわけ
#002 前編 「初めましては、ルッコラとレタス。そして、いただきます」ベイン理紗が育てた野菜を初めて食べてもらうまで
#002 後編 「さ、畑やってみよっ」都市での野菜づくりHOW TO教えます!
#003 大人が若者の話を「聞く」ことの大切さ。ベイン理紗が畑を始めるにあたって手を差し伸べてくれたFARMERS AGENCYの元社長・西川幸希との対談
#004 前編 「葉大根」が生んでくれた「初めまして、久しぶり、Hello!」。モデル/アーティスト・ベイン理紗が自分で育てた野菜を収穫し、東京で配ってみた
#004 後編 パンクロッカーから養鶏農家に。ベイン理紗が東京から山梨に移住した先輩に聞いた、人生の転機
#005 前編 ヨーロッパと日本のフリーマーケットや畑の公共性の違いから読み取る国民性
#005 中編 「本当の意味での持続可能な場所作りと生活をする」ドイツの農園をベイン理紗が訪れる
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